空気であって、空気の様

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空気のように見えない。空気のように触れない。


「おー!見ろよリン!」

ビオトープで所長に言われた食材を採取した帰りだった。無邪気な声にリンがそちらを振り仰ぐ。

「何?」
「ほら、あの空!綺麗な色だなー」

トリコに言われて見上げた空には宵闇の紫と白い雲が混じり、一種形容し難い不思議な色合いを映している。
隣にいるトリコが目を細めてその色を堪能しているのを見て、リンは少し驚いた。
しかしこうして綺麗なものを一緒に堪能出来るというのはくすぐったくて、リンはうっとりと目を細める。

「そうだねー、凄く綺麗」
「な、なんか美味そうだよな」
「え?」

陶然と呟いたリンの言葉に返ってきた言葉に思わず表情を引き攣らせた。空は鮮やかだが、この場の空気が大層怪しくなってきた。
しかしトリコはリンの不安に気付かず、笑顔で言い放つ。

「なんか、かき氷みてーな色じゃねぇ?」
「か、かき氷?」

確かにこの夕焼け空は燃える炎のそれではなく熟れた果実のような赤色をしている。しかしそれでかき氷を連想するとは、この男の脳は胃袋の形をしているのではないかと思う。

「かき氷、かぁ…」

綺麗な景色を二人きりで見て、甘い空気でも漂うかと思ったらこれだ。確かにリンの片思いだが、こうして二人でいる時くらいささやかな御褒美があっても構わないのではないだろうか。

「リン?どーかしたか?」
「何でもないし…」

小さく溜息をついたのが聞こえたらしい。首を傾げたトリコに、リンは笑って首を振った。

「さー帰ろ!早く帰らないと所長に怒られるし!」

半ば自棄になって声を張り上げる。足を速めたリンを、トリコは立ち止まったまま見つめていた。


その感情に名前をつけるには、もう随分と抱え込み過ぎていた。
友達の妹。最初はそれだった。明るく無邪気なその存在に和んでいた。
それがまた違う柔らかな感情を呼びだすようになったのは、いつからだったのだろうか。


「わっ」

不意にわしわしと頭を撫でられて、リンは思わず声をあげた。いつの間にかトリコがリンに追いついていたのだ。
尤も彼の歩幅とスピードなら、あっという間にリンを抜き去る事すら出来るだろうが。

「早く帰ろうぜ、かき氷食いたくなった」
「ん、そーだね」

楽しそうに笑うトリコを見上げて笑う。
こうして隣にいられるだけで幸せだ。この何気ない空気が変わらなければ、それでいい。


「うんみゃー!やっぱり虹の実サイコー!」
「ウチも初めて食べたけど、チョー美味しーし!」

たっぷり削った氷に虹の実の七色のシロップをかけてトリコは御満悦だ。トリコの身長の半分程の氷の量に、リンは小さく笑う。

「そんなにたくさん盛ったら最後の方溶けちゃうし」
「平気だよ」

トリコの言う通り、しゃくしゃくしゃくしゃく軽快な音を立てて氷がトリコの口に消えていく。器はあっという間に空になった。

「な?」

どこか誇らしげに言うトリコ。リンが笑った。


こんな時間が続けばいい。
空気のように見えず、空気のように触れず、空気のように必要な時間。

 

 

END.

 

 

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でわぁあ!!